無心昇天

子供は弓を愛していた。
矢が放たれ、的に当たる。
当たりどころが悪かったのか子供は目を細めた。
しかし当たりは当たりだ。
子供はまず喜んだ。
初めて当たった的を親に見せたいと思った。
何と言うだろう。
親は喜んでくれるだろうか。
子供は照れ臭いからサラッと言うつもりだ。
あのさぁ…的に当たったのだけど…

どんな反応をしめすのだろう…

親は静かに言った。

どうするのだ…

あの金の的は隣国から献上されたものぞ…
子供は絶句した。

お詫びの使者を隣国に出す…

そして隣国から返事が来る。

子供は絶望した。

国交を断絶にする文書だった。

子供は夜通し泣き明かす。

私が元服していれば…切腹するなり首を差し出すなり責任も取れたものを…

それに向こうは切支丹でこっちは仏教でもともと良好ではなかったからか…

色々な想像を働かせたがしかし、いつもたどり着くのはなぜあの時矢を放ったのかだった。
あの時に矢を放たなければ…
いつも通常の的を見慣れていたはずなのに…
なぜ…

なぜ…

そうこう想いを張り巡らせている間に使者が来た。

弁償うんぬんはいらないから的を変換せしとの使者であった。

しかし、初めて当たった的である。

子供は親に交渉を願い出た。

子供は相手の前で悩み尽くした。

使者も事情を聞き悩んだ。

聞けばその使者がどこか目につかないとこで処分するらしい。

子供は処分を命じた隣国の大名を恨んだ。

たしかにこれから友好を保とうという証を壊したのは俺だ。

元服してないから…

弁償する録がないから…

子供はその使者の顔もまともに見れなくなる。
苦しい…

苦しい…

子供は廃棄受諾した。
隣国は既に入口を閉ざしている。

とりつく島もなかったのである。

その後、子供は部屋に閉じ籠る。

無為に時間を過ごす。
神仏を拒否し、思いだしては苦しんでいる。
あの時に矢を放たなければ…